大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和32(オ)710 判決

主 文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理 由

上告代理人弁護士甲斐・の上告理由第一点、第二点について。

原判決が挙示の証拠に基き、被控訴人(被上告人、原告)が控訴人(上告人、被

告)に対し本件物件を売り渡したのは、当時被控訴人の債務整理の必要に迫られた

結果であつて、もし控訴人が本件売買代金の支払を約旨に従い履行しないときは第

三者に対し控訴人に対するよりもより不利益な条件を以て本件物件を売却せざるを

得ないこととなるかも計り難い事情であつて、本件売買残代金債務不履行の当時控

訴人においてこの事情を予見していたこと、並びに、被控訴人は本件売買解除後の

昭和二九年三月二九日訴外Dに対し本件物件全部を控訴人に対するよりも八五万円

低廉に売り渡した事実を認定した上、以上の事実に当時の一般物価の変動の状況そ

の他弁論の全趣旨にあらわれた諸事情を勘案して見ると前示差額八五万円中金四三

万円相当額をいわゆる特別事情による本訴損害賠償として負担すべき義務あるもの

とするを相当とすると判示したこと、および、右判示に当り当時の一般物価の変動

の具体的状況並びに弁論の全趣旨にあらわれた具体的諸事情を何等判示しなかつた

ことも所論のとおりである。しかし、売主が売買契約を解除した場合、解除当時又

はその後の売買物件の時価が約定価格より低廉であるときは、その差額は通常生ず

べき損害というべきであり、また、然らずして単に時価以下で売却せざるを得ない

特別な事情があるときは、その差額は特別事情に基く損害であるといわなければな

らない。従つて、本件において訴外Dに対する売却価格が時価だとすれば、通常生

ずべき損害として差額八五万円全部の賠償を求めうるこというまでもないし、また、

原判決にいう「不利益な条件」が時価以下で売却せざるを得ない特別な事情である

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とすれば、これを予見するにおいてはその差額八五万円は特別事情による損害賠償

として全部これを請求し得る筋合であるといわなければならない。しかるに原判決

は、何等時価を確定することなく、また、単に不利益な条件と判示するだけでその

具体的な特別事情であるか否かを判示せず、しかも、差額八五万円中四三万円だけ

を何等理由を示すことなく特別事情に基く損害であると判示したのは、その損害額

算定の理由が不備であるといわなければならない。果たして然らば、論旨はその理

由があつて、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 斎 藤 悠 輔

裁判官 入 江 俊 郎

裁判官 下 飯 坂 潤 夫

裁判官 高 木 常 七

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